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県内の半数の自治体 職員採用時に「健康診断」を実施~公正採用選考違反~

~解放新聞山口版 2011年12月(第65号より)~ 

 山口県内の自治体で、職員採用時において
「就職差別につながる恐れのある」健康診断(健康診断書の提出など)を
実施していることが明らかになった。

採用選考において、血液検査などの健康診断の実施は
「就職差別につながる恐れがある」として、
厚生労働省は客観的・合理的な必要性がある場合を除いて実施しないように指導している。

しかし、県内のいくつかの自治体では一般職の試験でも、
客観的・合理的な目的や基準もないまま、健康診断(提出)を実施している。
採用選考時において、不必要な健康診断の実施は、就職差別につながる恐れがあり、
実施の必要性ついてに再検討するべきである。

今後、県内の自治体での採用選考の実態把握につとめ、
その必要性や実施にあたり、就職差別につながる恐れのないように、
公正採用選考の確立に取り組んで行く。

■必要な場合でも、客観的理由を明示、検査項目を限定、応募者の同意の上

「採用選考時」における血液検査などの健康診断の実施は
「就職差別につながる恐れのある項目」として厚生労働省が何度も通達を出し、
山口県・県教委も毎年、事業主に対して通達を出している。

健康診断を実施する場合でも、
①職務遂行上の能力の有無の判断に関わる範囲に限定し、
②検査目的・内容・科学的根拠を明確にし、
③事前に応募者に充分説明し、相互の了解の下で、結果判定には産業医の意見も取り入れるなど、
 就職差別につながらないように注意をはらい、実施することとされている。

■県内市町の状況

山口県連が確認したところ、一般職での職員採用選考時において
健康診断を実施(健康診断書の提出)しているのは、
下関市、長門市、美祢市、平生町の4市町である。

専門職での実施は、萩市(病院・消防)、光市(水道・消防)、
柳井市(消防)、下松市(消防)、宇部市(消防)の5市である。

消防などの専門職においては、
山口市、周南市、岩国市、防府市、山陽小野田市などでは、
採用選考時に体力検査は実施しているが、健康診断は実施していない。

採用担当課に「健康診断書」提出の理由を聞くと、
ほとんどの自治体は「明確な理由」はなく、
以前からの慣行として健康診断書の提出を求めていた。

ある市は「ウイルス感染やC型肝炎などがないか調べるため」と回答、
別の市は「職務が遂行できる健康状態にあるかどうかを調べるため」と回答。

しかし、その場合、健康診断書の結果で「合否に影響したケース」
「不合格になる基準があるのか」と聞いたが、
不合格になった事例や明確な検査項目・採否の基準はなかった。

また、受験生の健康診断書を、本人へ返却・破棄せず、
不合格者のセンシティブ情報である健康診断書を保管している自治体も多かった。

■「採用時」≠「雇い入れ時」健康診断

厚生労働省は、労働安全衛生規則第43条にある「雇い入れ時の健康診断」は
あくまで採用後の適正配置・健康管理のために実施するものであり
「応募者の採否を決定するために実施するものではない」としている。
「健康診断の必要性を慎重に検討することなく、採用選考時に健康診断を実施することは、
応募者の適正と能力を判断する上で必要のない事項を把握する可能性があり、
結果として、就職差別につながる恐れがある」(1993年労働省職業安定局)との通達を出している。

また、応募者の適正と能力を判断する上で
合理的かつ客観的に必要性がある場合を除いて実施しないようにとしている。

■血液検査はウイルス感染者等 差別や偏見を助長する恐れ

健康診断によって事業主が得る受験者の健康に関する情報はセンシティブ情報にあたる。
不合格者は雇用されない事業所に病気やプライバシーに関わるセンシティブ情報を
預けたままになる。個人情報の漏洩や流出などの場合には、管理者の責任が問われる。

近年の裁判では「応募者の同意を得ず」におこなったHIV抗体検査やB型肝炎ウイルス検査が
不法行為であるとの判断を受けている。
したがって、ウイルス感染の有無について確認するのであれば、
応募者からの同意を得てからおこなう必要がある。

また、厚労省は採用選考時において「血液検査」等の健康診断を実施することは、
結果としてB型・C型肝炎などのウイルスの持続感染者に対する
就職差別につながる恐れがあると指摘している。

■マイナスモデルとしての機能

本来、就職差別撤廃・公正採用選考の確立に向けて
取り組まなければいけない自治体が、
職員採用時において健康診断を実施している。

このことは、地元の企業所や行政関係団体などの採用選考モデルとして
マイナスの効果を果たしている。

現に、該当市町の社会福祉協議会や農協、地元の有力企業などでも同様に、
採用選考時に健康診断を実施しているケースが多い。

これまで、労働局や当該自治体を受験した高校や大学などから、
健康診断の実施についての疑問や指摘はなかったのだろうか。
県立高校において実施している受験報告書は機能していたのだろうか。

今後、県内の自治体、民間企業をはじめ各種団体などの採用選考の実態把握をおこない、
就職差別撤廃・公正採用選考の確立に向けた取り組みを展開して行く。

**************************************  ■「血液検査」に関して(厚労省の見解) ウイルス性肝炎は、通常の業務において労働者が感染したり、
感染者が他の労働者に感染させたりすることは考えられず、
また多くの場合肝機能が正常である状態が続くことから、
基本的に就業にあたっての問題はない。
肝炎ウイルスの持続感染者等に対する差別は、
偏見を基礎にしたものであるといえる。
したがって、採用選考時において肝炎ウイルス検査(血液検査)を含む
合理的必要性のない「健康診断」を実施することは、
結果として肝炎ウイルス感染者等に対する就職差別につながる恐れがある。
(参考:2001年厚労省通達「採用選考時の健康診断に関わる留意事項」)
■「色覚検査」に関して(厚労省の見解)
色覚検査において「異常」と判断された人の大半は支障なく
業務をおこなうことが可能であることが明らかになってきている。
労働安全衛生規則の改正(2001年)により、
「雇入時の健康診断」の項目として色覚検査は廃止された。
従って、労働者を「雇い入れる」際には、
「色覚異常は不可」などの求人条件をつけるのではなく、
色を使う仕事の内容を詳細に記述するとともに、
採用選考時の色覚検査を含む健康診断については、
職務内容との関連でその必要性を慎重に検討し、
就職差別につながらないように呼びかけている。