東京地裁 部落の地名リストの公開は違法 ー山口県は差し止めの対象外にー
東京地裁で9月27日、『全国部落調査』復刻版裁判の判決が下された。判決では『復刻版』の出版・ネット掲載はプライバシー権の侵害であり「違法」との判断が下され、示現舎代表の宮部龍彦に対して計488万円の賠償が命じられた。しかし今回は、山口県をはじめ16県は差し止めの対象外とされた。中央本部は今回の判決を不服として、東京高裁に控訴した。
判決理由では「現在でも部落問題が解消されたとは言い難い」として「住所や本籍が同和地区内にあることを知られれば、差別や中傷を受ける恐れがある」と指摘。地名リスト公開による損失は「結婚、就職で差別的な取り扱いを受けるなど深刻で重大であり、回復を事後的に図ることは著しく困難」とした。
しかし、今回の判決では出版物等の内容すべてを掲載禁止にせず、『復刻版』に掲載された41都府県のうち25都府県のみを差し止め対象とし、山口県など16県は差し止め対象から除外された。
除外されたのは原告のいない10県(秋田県、福島県、茨城県、石川県、福井県、山梨県、岐阜県、静岡県、愛知県、徳島県)と原告がいた6県(山口県、佐賀県、長崎県、三重県、富山県、千葉県)である。
原告の権利侵害が認められず除外された理由として①原告が裁判中に亡くなった、②本人がカミウングアウトして活動している、③原告の現住所・本籍地が『復刻版』に掲載された地名と一致しなかったなどの理由であった。
除外された6県はすべて原告が1人(佐賀2人)であったため、原告の当該県すべての地名リストの差し止めが除外されてしまった。
本来なら部落地名リストをネット上で公開・出版すること自体が、全国の部落出身者や部落に住む人たちに対する部落差別を助長・誘発する行為であり、原告らが主張し続けてきた「差別されない権利」の侵害であると、裁判でも訴えてきた。
しかし、仮処分決定では認められた「差別されない権利」は、一審判決では認めらなかった。
原告を1人しか出せなかった、あるいは原告を出すことができなかった県こそ、部落差別の被害を声に出すことができない厳しさがある。
今回の裁判の準備段階で部落解放同盟山口県連の同盟員にも「原告になって欲しい」と依頼した。しかし、ネット上で「晒し差別」をおこなう相手に対する裁判のため、部落を出て生活している子どもや孫たちに被害が及ぶことを恐れ、多くの同盟員が原告になることを断念した。最終的に山口県連を代表して川口書記長が原告となった。
判決後も、鳥取ループ・示現舎は各地の部落の動画を掲載し続けている。ネット上に晒されている県内の「部落探訪」の動画や写真も、いまだに削除されていない。
今回の判決では、このような確信犯に対して現行法では対応できないという「部落差別解消推進法」の限界も浮き彫りとなった。
差別禁止規定を盛り込んだ「推進法」強化改正、包括的差別禁止法の制定が必要である。同時に、部落差別解消に向けた教育・啓発にしっかりと取り組むことで、差別をしない、許さない人たちの育成に取り組む必要がある。判決の課題を踏まえ、次の展開に全力で取り組んでいく。