主張 「人権尊重の視点に立った」施策、教育・啓発活動の推進とは?
2002年3月末に特別措置法が失効し10年が経つ。この間、県内の自治体でも同和行政から人権行政、人権教育として進められてきた。
山口県人権推進指針では「今後は、同和問題は人権に関わる課題の一つとして捉え」「基本的人権を尊重するという視点にたった教育・啓発活動を推進します」とし、県内の市町も同様にやってきた。
しかし、「同和問題は人権課題の一つ」と言いながら、実際には学校教育でも同和問題だけが取り上げられていない現状が明らかになった。市民啓発でも、多くの市町で同和問題をテーマにした人権研修はゼロという状況が明らかになっている。
特別措置法がなくなったということは、同和問題解決の手法が「特別対策」という手法から「一般対策」に変わっただけである。「差別がある限り、同和行政は積極的に推進されなければいけない」(65年内閣「同対審」答申)を再確認する必要がある。
同和行政とは、同和問題解決のための行政施策である。「法」の失効は、事業法にもとづく「同和対策事業」が終わっただけで、同和行政が終わった訳ではない。
県がいう「人権尊重の視点に立った施策の推進」とは、同和問題解決の仕組みが、すべての人権課題の解決につながる仕組みになるように取り組むということである。
結婚差別・就職差別の身元調査において戸籍が利用され、苦しめられてきた部落解放運動だからこそ、戸籍制度にこだわり、本人通知制度導入の取り組みを展開してきた。
この制度が導入されたことで、部落外の人たちの個人情報保護、自己情報コントール権の確立にとって大きな役割を果たしている。これが、同和問題を解決する取り組みが、すべて人の人権を尊重する取り組みにつながる一例である。
「人権尊重の視点に立つ」ということは、同和問題を取り上げず、人権一般の抽象的な啓発活動をすることではない。差別は具体的である。その差別によって、どのような人権が侵害されたのか。奪われた人間の尊厳をどう回復するのか。今後、再発防止に向けてどう取り組むのか。それぞれの具体的な差別の現実を通して、人権確立を考えていくことが求められている。
学校の人権教育、市民啓発も同じだ。「これまでの同和教育の成果と手法を十分に評価し」と言いながら、実際には、同和問題だけ扱わず、具体的な差別の現実、子どもたちの生活の現実と向き合うことなく、抽象的な人権一般の学習、「おもいやり」「やさしさ」という徳目主義的な道徳教育に向かっている傾向がある。
同和教育の成果と手法である「差別の現実から深く学ぶ」姿勢や、個人の自己責任ではなく社会問題として捉える視点などが欠落している。人権行政、人権教育になり10年。改めて「人権尊重の視点に立った」施策、人権教育・啓発の内実を問う必要がある。
解放新聞山口版第70号(2012年6月号)「主張」より